― 兼業農家との違いと、地域を支える新しい形 ― 「副業農業」という言葉には、まだ公的な定義はない。 だからこそ、ここで一つの線引きを示しておきたい。 副業農業とは、もともと農業に従事した経験のない個人が、副業として農業に携わることを指す。 これは、農業を家業として継ぎながら勤めに出る「兼業農家」とは異なる。 兼業農家が“農を守るために働く人”であるのに対し、 副業農業は“働く人が新たに農に入る構造”である。 都市で働く人々が、生活の延長線上に「農」というもう一つの軸を持ち始めている。 この動きは、農業人口減少に対する一つの現実的な解であり、 地域社会にとっては、新しい担い手が生まれることを意味する。 地域を支える「人の気配」としての副業農業 地方では高齢化と後継者不足により、 農地の維持が難しくなっている地域が増えている。 重要なのは、「使われない土地は劣化する」という現実だ。 人が歩き、畑を耕し、水を通す――その営み自体が、 制度や補助金では置き換えられない「保つ力」になる。 副業農業は、その“人の気配”を地域に戻す。 たとえば、 ・借りた農地を耕すことで土地が生き続ける ・地域の人と顔を合わせることで、緩やかなつながりが生まれる ・都市と地方の間に、新しい人の往来が生まれる 外から来た人が“使う人”として関わる。 その小さな積み重ねが、地域の持続性を静かに支えていく。 企業が支援する意味 企業が社員の副業農業を後押しすることは、 三つの側面で価値を生み出す。 まず、福利厚生としての効果。 土に触れ、体を動かす経験は、 社員の心身の健康を整える。 それはジムや保養所とは異なる、自然の中での実践的なリフレッシュだ。 次に、人材育成の側面。 農業は「待つこと」「自然と折り合うこと」を求める。 効率だけでは解決できない現場での判断力、 そして地域の人々との協働を通じた関係構築力を育てる。 最後に、地域貢献の視点。 企業が大きな予算を投じなくても、 「場所を貸す」「柔軟な働き方を認める」 といった小さな支援で地域の農業基盤を支えられる。 この三つは、企業単独では生み出しにくい“社会との接点”をつくる。 副業農業は、社員・企業・地域をゆるやかに結び直す仕組みになり得る。 次回予告 筆者はこの仕組みを体系化し、**「F...